理事長挨拶
理事長就任挨拶
一般社団法人日本胸部外科学会
理事長 千田 雅之(獨協医科大学 呼吸器外科)
胸部外科学会の持続可能な成長のために
まずは、元日から発生した能登半島地震により被害に遭われた方々に心よりお見舞い申し上げます。一日も早い復興をお祈り申し上げます。
さて、このたび、伝統ある日本胸部外科学会理事長に就任させていただきました。学術集会の3分野会長制度の導入や、JATS-NEXT制度の制定、GTCCの発刊など澤前理事長を中心とした理事会の流れを引き継ぎつつ、多難な変革期を迎えつつある胸部外科学会の持続可能な成長のために微力ながら貢献させていただく覚悟でございます。
3分野の外科医の集合体である胸部外科学会は、それぞれの分野がすでに基盤となる学会を有している統合学会であり、ある意味日本外科学会に似た立場にあります。分野統合学会のあるべき姿を模索し、われわれは既に学術集会の開催形式を改め、3分野がそれぞれ最大のパフォーマンスを発揮できるように3会長制に舵を切りました。これまで胸部外科学会が「まとまりのない3分野を内向きに何とかまとめようとしてきた」という歴史を転換し、同じ土台には乗った上で3分野がそれぞれ別個に外向きに展開するという新機軸であり、学会の活性化に十二分に資するものと考えています。この改革は、食道、呼吸器分野に恩恵をもたらすのみでなく、心臓分野にとっても利するものであってこそ意味のあるものになると思います。心臓分野のさらなる発展に関して、副理事長の志水先生とともに尽力してまいりたいと思います。
胸部外科学会は、3分野の学術的発展にとどまらず、時代の要請・時代の変化に対応した、課題解決型の学会運営に取り組まなければなりません。働き方改革にともなうワークシェアリングはこれからの日本の医療にとって必須のものである一方、質の低下は最小限にしていかなければなりません。本邦ではNP、PAとは少し違った「特定行為に係る看護師研修制度」によるいわゆる特定看護師制度が動いています。資格を取った特定看護師が胸部外科領域の術後管理などで最大の効果を発揮できるように、しっかりした教育システムを構築することが患者の恩恵となりますので、松宮チーム医療推進委員会委員長とともにこの課題解決に向けて進んでまいりたいと思います。また、特定看護師にとどまらず、「臨床工学士等に関する法令の改正」により臨床工学士がVATSやMICSに手洗いして参加しカメラ助手ができる様になりました。人数の少ない市中病院では福音になるものと思われます。時代の変化を取り入れ、胸部外科医が持続可能な生活を送れるように必要な制度を確立していきたいと思います。
また、若手教育も重要な課題といえます。既に、心臓血管外科学会にはU-40があり、呼吸器外科学会にも若手教育部会が存在してそれぞれに活発な活動をしています。胸部外科学会としては臨床に特化した若手教育は各学会に任せ、アカデミックサージャンを育成するべくJATS-NEXTを組織しています。臨床研究の第一歩は症例報告による気づきにはじまります。地方会の活性化を通して若手のやる気を引き出すことが重要となります。各地方会での優秀演題に秋の学術集会での発表機会を与えるCase Presentation Awardでは、とかく留守番として学会に参加できない若手が学術集会に参加しアカデミズムに触れるきっかけになると思います。また、本年はJATS-NEXTによる初めての学術集会であるJNACが大阪で開催となります。成功裡に終わることを期待します。また、JATSフェローシップでは、若手の欧米への短期留学支援を行なっています。期間は1-3ヶ月で行先との交渉は国際委員会が担当し希望の留学先へ行けるように斡旋いたします。これまでも欧米の有名どころの大学病院に多数の若手を送り出してきました。さらに、呼吸器分野では欧州の3つの違った病院を1ヶ月ごと3ヶ月かけて回るプログラムも開始できそうです。初めの1ヶ月は英国で、次はイタリア、最後の1ヶ月はウィーンで、などと自由に組むことができる様に考えています。学術集会では是非、国際委員会企画のホームカミングセッションに立ち寄りこの制度を利用して留学した先輩たちの声を聞いていただければと思います。
国際関係では、これまでもAATSとの間で心臓分野ではAortic SymposiumやMitral Conclaveを学術集会の際に開催してきました。今年の秋は呼吸器分野もAATSとの間で協定を結び、毎年9月にニューヨークで開催されているInternational Thoracic Surgical Oncology Summit (ITSOS)を、今年の金沢での学術集会においてITSOS at JATSとして開催しますと同時に、ニューヨークでのITSOSの際に1セッションを我々のために割いていただきJATS at ITSOSを開催いたします。これを機会に呼吸器でITSOSに参加したことがなかった人も是非ニューヨークでのITSOSにご参加ください。また、ニューヨークに行けない人は金沢で開催するITSOS at JATSにご参加ください。本企画は延長オプションのついた単年度契約です。是非とも金沢、ニューヨーク共に成功させて毎年開催に持ち込められればと考えています。一方、海外にはSTS、EACTS、ESTS、ASCVTSなどの多くの国際学会が存在します。心臓血管外科学会、呼吸器外科学会、食道学会それぞれが国際化を進めていく中での交通整理も必要と考えています。
先日、内閣府から日本医学会連合を通じて各学会に、本邦における医療分野の研究開発に関し、現状や課題を問うアンケートが届きました。わが国はいまだ開発力はあるもののそれを世界展開する資金が足りず、外資の巨大企業に技術を安く買い叩かれているのが現状と思います。資金が足りない原因の一つとして新規の技術にいち早く保険点数をつけることができない日本のある意味優秀な官僚制度があると思います。政治を動かさないと政策誘導はできません。日本医師会が力を落としている現在、医科系学会が日本医学会連合を通して強い働きかけをする必要を感じます。
事務局改革は、澤前理事長のもと始まりましたがいまだ道半ばです。多くの問題が山積しています。学会の事業が拡大し事務作業が増加していく中で本邦の労働力不足は深刻です。学会の事業を拡大させていく中でどのような事務局が最も適しているのか、事務局のあり方委員会を再度立ち上げました。今後の議論の推移を見守りたいと思います。
最後に。学会員の活躍無くして学会の活性化はありえません。Z世代の若者が増えていく中で、いかに若者に活躍してもらうか。24時間働くのが当たり前の時代であった20世紀に医学部を卒業し医師になった世代がこの国・この学会を支えていけるのは長くてあと15年ほどです。昭和、平成1桁卒業の世代が過労死をせず次の平成世代にバトンを上手に渡すことができるようにするには地道な社会改革が必要と考えています。胸部外科領域の医療ならびに胸部外科学会が時代に合わせた形をとりながら持続可能な発展を遂げられるように努力して参りたいと思います。